『紙の上の魔法使い』好きなところメモ

ネタバレあり。

 

 

 

シナリオ

ヒスイの排撃原理

「犯人は、小説の初めから登場している人物でなくてはならない」

それはノックスの十戒の第一項。

「これを、今回の小説に当てはめて考えます。もちろん、こんなのは現実では許されない、意味不明な推理方法ですが」

それが物語とわかっている前提の、邪道の推理。

これが、月社妃の物語の終わらせ方。

 

 かなた

「わたし、瑠璃さんのことが……本当に、好きなんです」

だから、言わなければならないのだろう。

幕引きは、やはり主人公の手で降ろされるべきなのだ。

だから、口を開く。

この歪な関係を終わらせるために。

瑠璃

「甘えるなよ」

それは、彼女の懇願を打ち砕く排撃の返し。

瑠璃

「不幸を武器に生きるだなんて、間違っている。それは、幸せを望む者に対する冒涜だ」

かなた

「……………………え?」

あっけにとられる彼女。

それは、どこか許されると思っていたからだろうか。

瑠璃

「こんな周りくどい真似をする必要なんて、なかったんだ。普通におしゃべりして、普通に仲良くなって、普通に恋に落ちればよかった」

一歩、下がった。

それは、拒絶反応。

かなた

「る、瑠璃さん……?あれ?どうして、距離を開けるんですか?」

瑠璃

「作られた関係性に、望むものはない。これじゃあ俺が、バカみたいじゃないか……」

どぎまぎして、手を握ったことも。

そのぬくもりに、思いを馳せていたことも。

彼女を守ろうとして、決意したことも。

瑠璃

「全てあんたの筋書き通りなら……俺の気持ちは、なんだったんだ」

もう一歩、下がる。

二度と、甘えられたくなかったんだ。

瑠璃

「そんなことを、しなくても」

そんなことを、してくれなくても。

瑠璃

「かなたのことが大好きだったのに」

 このゲームの掴みとして、非常にいいお話だった。

 ブラックパールの求愛信号

 クリソベリル

「――紙の上の存在である伏見理央は、最初から傷を負うことが出来ない存在なの」

瑠璃

「……あ」

あのとき、夜の学園で、俺が見たのは、吸血鬼ではなかったのか?

見ないで、という言葉の意味。

不自然に治った傷跡。

止血するまでもなく止まった血。

あれは、吸血鬼の特性ではなく、理央自身の特異性?

(中略)

『伏見理央』と名付けられた、魔法の本。

それが、今俺の目の前にあるのだ。

クリソベリル

「だから、こうして――本に願い、本を開いてみたとしたら」

少女は魔法の本を開いて、開いて、語ってしまった。

クリソベリル

「――おかえりなさい、伏見理央」

開かれた本のページが、一瞬白く瞬いた。

瞬間、とても懐かしい匂いが鼻をかすめる。

柔らかい少女の思い出が、胸いっぱいに広がったような気がしたんだ。

そうして、世界が一瞬、書き換えられたようにぶれたと思ったら。

理央

「…………っ」

まるで初めからそこにいたかのように、少女は舞い降りていた。

瑠璃

「あ、あああ、ああああっ!」

消える前と、寸分変わらぬその姿で――理央は、そこにいてくれた。

クリソベリル

「これこそが、倫理観さえも捨て去った、遊行寺家の裏側よ」

 

 クリソベリル

「ここからが――遊行寺闇子の恐ろしさだよ。これは、人間を冒涜する悪魔の様な所業だ」

その本のタイトルは、ここからでは見えなかった。

クリソベリル

「お兄さまの願いを、叶えてあげる。ただし、最も望まない形でね。きゃはは、さながら妾が、ドッペルゲンガー?」

そして、もう一度。

今度もまた、白い光が視界を覆う。

けれど、先ほどとは違って、柔らかな雰囲気は一切なく。

むしろ逆に、肌を刺すような痛みを携えていた。

瑠璃

「……ああ、なんだよ、これ」

その姿を、一目見た瞬間。

俺は、この世界が壊れてしまっていることを確信した。

ああ――神様、これはどういうことなのでしょうか。

「初めまして」

 ここの衝撃たるや。

 オブシディアンの因果目録

かなた

サファイアが煌めいて――少女の想いは忘却の彼方に消されてしまいましたが」

瞳が、潤いを帯びて。

かなた

「ようやく、ようやく、長い時間をかけて、ここまできましたよ」

それは何年越しの、物語だ。

魔法の本は、一体何年の時を縛り続けていて。

かなた

 「――そして少女は、全ての記憶の感情を取り戻すのです。もう一度、あなたのことを好きになって――何度でも、恋に落ちました」

不意に、見覚えのない光景がダブって見える。

いつか、どこかで、こんな風に、愛を告白されたような気がして。

かなた

「ずっとずっと、大好きでした。瑠璃さんのことが、ほんとうに本当に――大好きだったんです」

そうしてかなたは、切に願う。

かなた

「4年前に貰えなかった返事を、してくれますか?」

瑠璃

「――っ!?」

その瞬間、視界に青の輝きが瞬いた。

遅れてこみ上げてくる光景は、サファイアが覆い隠していた記憶。

パンドラでさえ言及していなかった最後の真実に、思わず俺は呼吸が止まった。

かなた

サファイアは、これにて読了です」

過去の告白の伏線回収、サファイアを開いたのがかなただったという驚き。

これでこれまでのヒスイとアメジストでのかなたの猛アタックの意味がわかるの凄い。

 

私服可愛い

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アパタイトの怠惰現象を読んだ瑠璃

瑠璃

「……妃」

あいつが、願い記した物語。

これが、今ここにあるという意味を、俺は本当に理解していないのだろうか。

月社妃が願った光景。

それは、本当に、もう叶わないものなのだろうか。

大切な人が、消えてしまいました。

彼女はもう戻りません。

けれど、俺たちはまだ、ここにいて。

俺たちの人生は、閉じられることなく続いている。

――よろしくお願いしますよ、瑠璃。

目を閉じれば、そんな声が聞こえてくる。

もし、妃がこの場にいたのなら、今の幻想図書館をどう思うだろうか。

そんなの、わかりきっているじゃないか。

だからアパタイトは、幸せな日々を願っていたのだ。

瑠璃

「もう、一年経ったんだな」

それでも、前を向くことが出来ないまま、方向を見失った俺たちへ。

「これが、道標か」

ぎゅっと、妃の妄想帳を握りしめた。

瑠璃

「……わかったよ、妃」

だから俺は、行動しよう。

悲しみに暮れて背中を向けることを辞め、先陣を切って、前を見据えようじゃないか。

妃が好きだった図書館を、取り戻そう。

瑠璃

「俺が、アパタイトを真実にしてやるよ」

暗がりに惑う俺達の前へ、光のように現れたような気がしたんだ。

 「どうか、お幸せに」

さっきまで、泣いてたくせに。

今だって、本当は泣きそうなくせに。

泣き虫な俺の妹は、笑顔を咲かせ続けていた。

瑠璃

「――お前のことなんて、大っ嫌いだ」

自分の心を、ナイフで抉ったような感覚がした。

瑠璃

「本当に本当に、大っ嫌いだ……!」

その言葉を、待ちわびていたんだろう。

俺にそう言わせたくて、ここに存在する。

「ごめんなさい、瑠璃。あなたを、辛い目に合わせてしまいました」

嬉しそうに、笑った。

それはとても、優しい笑み。

瑠璃

「だったら、こんなことを望むんじゃねえよ……!この馬鹿妹が」

勝手なやつだ。

本当に、勝手なやつだよ。

だけど、風のように自由なお前が、大好きだったんだ。

「瑠璃の青春は、これからも続くのです。過去にとらわれて、いつまでも引きずる必要なんてありませんから」

それはもう、終わってしまった物語。

「私を愛してくれたことだけを、覚えていてくれたら――私はそれで、満足ですよ」

好きになったことが、なくなるわけじゃない。

俺はこれからも、ずっとずっと覚えていようと思う。

「思い出にしてください。過去にして下さい。でなければ――次にある恋の機会を、失ってしまいますから」

一歩。

妃は、俺から距離をとった。

「瑠璃との日々が、雪解けのような冷たさとともに、心に染みます」

薄っすらと、瞳には涙があふれていた。

「ああ、思い返してみれば――なんと私は、幸せな女の子だったのでしょうか」

強がりが、壊れかけていた。

無理をしていたことは、あまりにも明白で。

しかし――俺はもう、見守ることしか出来ないのだ。

「あなたと恋をして、あなたとの日々を共有できて、こんなにも幸せでした。だから、瑠璃も――どうか、お幸せに」

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私と不幸になりなさいと言いつづけてきた妃が最後にこれ言うのずるい。

 妃の死の理由

「――瑠璃、あなたは神に、誓えますか?」

私は、誓えますよ。

すべてを捧げて、誓うことが出来ますよ。

なんなら、証明してみましょう。

オニキスが私の心変わりを求めるなら――私も相応の覚悟で応えます。

「他の男を愛するくらいなら、瑠璃への想いを抱いたまま、死んで見せましょう」

(中略)

クリソベリル

「どうして」

撥ねられる瞬間、月社妃の表情を見た。

オニキスに絶望して、苦痛に歪んでいるわけではなく。

他の男に抱かれることを、悲しんでいるわけでもなく。

「ざまあみろ」

月社妃は、笑っていた。

現実を嘲笑うかのように、笑っていた。

魔法の本が、何かを変えることなんて、出来ないとでも言わんかのように。

「私の愛は、私だけのもの。他の誰にも、揺るがせない」

 夜子を説得してくれる妃

夜子

「人を呪わば穴二つ」

羽ペンを拾い上げて、その憎しみに身を委ねようとした刹那。

夜子

「え?」

背後で、蛍石が煌めいた。

壊れかけのラピスラズリの中に潜む、フローライト。

その光が、あたしの憎しみを優しく包み込んでしまう。 

全てを恨みに委ねる決意を固めた。

黒い感情に囚われたあたしが、冷たい未来を思い浮かべた瞬間。

それは、背後からやってきた。

振り向かなくても、わかってしまった。

背後からやってくる人物の存在感に、あたしは唇を噛みしめる。

夜子

「それでもあなたは、立ちふさがるのね」

現実から目を背けることを。

空想に夢を委ねることを決意したあたしを咎めるかのように、月社妃は現れた。

「いえ、別に」

さも当たり前のように。

自らの意思で退場した少女は、それでも物語にとどまり続けていて。

(中略)

「今の夜子さんは、失恋するのが怖いだけの、単なる子供にしか見えませんよ」

夜子

「なっ――!!?」

「告白して、想いを伝えて、振られるのが怖いのです。強い言葉は、怯えの何よりの証明。気持ちを曝け出して、報われないのが怖いんですよ」

夜子

「――――――――――っ!!!」

心臓が、止まったような気がした。

ダメだ、いけない。

何か、喋らないと。

夜子

「どうして、そんなことが妃にわかるのよ!妃はあたしじゃないんだから、勝手にあたしの気持ちを決めないでっ!」

「同じ、二番手にしかなれないから」

そこで妃は、初めて悲しそうな表情を見せる。

「二番手に留まることしか出来なくて――私も、怖かったから。その気持ちは、痛いほどわかります」

二番手。

妃はいつも、瑠璃を見つめていて。

その隣には、かなたがいた。

(中略)

「恋愛なんて、そういうものなのですよ。利己的で、憎々しくて、黒々しくて、本当にどうしようもないものなのです。そのことを、あなたは理解するべきです」

恋愛は、泥だらけ。

おぞましくて、怖いもの。

夜子

「……だけど、小説の恋愛は、とても、素敵で、魅力的だった……」

煌めくような恋物語は、こんなにも恐ろしいはずがなく。

だから、あたしみたいな憎悪にまみれている女の子に、叶うはずのないものなのだ。

「だからこそ、です」

それでも、妃は優しく言った。

「残酷で、恐ろしいものだからこそ」

「その中で煌めく何かが愛おしくて、人は恋することを忘れないのです」

煌めく何か。

愛おしい、感情。

「辛くて、厳しくて、恐ろしいからこそ――それを乗り越えた先に、真の幸せがあるのです」

それは、きっと。

空想の物語では、手にすることの出来ないものなのだろう。

「本が、物語を描くのではありません。人が、物語を描くのです」

(中略)

夜子

「あたしの親友は、鬼だわ。鬼じゃなかったら、悪魔よ」

もう笑うことしか出来なくて。

夜子

「魔法使いなんかよりも、ずっとずっと恐ろしいわね」

それが、多分。

白旗の言葉だったのだろう。

「大丈夫ですよ。それでも夜子さんは、強くなれると信じていますから」

いつものように、笑って見せて。

「痛みをこらえて、前に進むのです。それが、私には出来なかった、恋物語の描き方」

もう、何も言えなくなってしまったあたしへ。

最愛の親友は、最後の言葉をくれた。

「こうして少女は、大人になっていくのですね」

 

まとめ

このゲーム、圧倒的に妃が好きでした。お話も面白かったのでいいゲームだったと思います。ただ妃の選択肢がえぐすぎて本当に辛かったです。

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これで大嫌い選べる奴いないでしょ。

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また、このキャッチフレーズ「キミと本との恋をしよう」ですが、瑠璃が本だからってことですかね。

最終的には、魔法の本の影響がなくなった中で、瑠璃がかなたと結ばれることで、夜子も妃も理央も失恋しました。これは「本当の恋」ができたってことじゃないでしょうか。

かましいわ。

さくら、もゆ。-as the Night's, Reincarnation- 応援中!!