『親愛なる孤独と苦悩へ』感想
評価:Aランク★★★★☆
人の葛藤や悩み、そして人生について考えさせられる名作。フリーで公開されているとは思えないほどの出来だった。
悩める若者たちが、カウンセリングのホームページを見つけることから物語は始まる。どの話にも共通して言えることだが、このカウンセリングが実践的な心理学を教えてくれるので本当に勉強になる。
ただこのゲームのすごいところは、心理学を教えてくれるだけじゃなく、心理学を通して苦悩を抱える若者が成長していく物語を描いている点にある。この心理学と成長物語がうまく絡み合い、よりよいシナリオになっていると思った。
- 内田姫紗希
教育実習がうまくいかずに悩む姫紗希が、カウンセリングを通して成長する物語。カウンセリングでは、まこちゃんが心について様々なことを教えてくれるので、姫紗希と一緒に勉強しているような感覚になった。とくに、自分の中にある「観念」を見つめなおすことで人は変われるということが衝撃的だった。
うまくいかない事実を変えるのではなく、自分の考え方を変えることで、こんなにも人は楽になるんだなぁと驚いた。
そして姫紗希が自分の本当の気持ちに気づき、それを父に告白するシーン。これまでのため込んできた思いを吐き出し号泣する姫紗希をみて、思わずやみちゃも涙が出ちゃった。あんなに教育実習を嫌がっていた姫紗希が、最終日には子どもたちとの別れを惜しんで泣いてるし、この話は姫紗希の成長を強く感じることができてよかった。
- 那古龍輔
この話でも「観念」が登場し、自分の本当の気持ちに気づいて成長する龍輔を見ることができた。
龍輔が本当に妹思いのお兄ちゃんで、妹のために格ゲーを始めたり、妹のために大会で優勝しようとしたりする「兄としての龍輔」が好き。大会の決勝で、冒頭から憧れていた技を使って勝つのめちゃくちゃ熱かった。姫紗希の感動する話とはまた違った面白さがあった。
- 都宮海
尋が海の足を引っ張るから絵をやめるという気持ちを隠していて、それが明らかになるところはかなりグッときた。その気持ちがわかるのも、海が自分と尋の会話を客観視し、相手を否定しないでただ自分の気持ちを伝えるというまこちゃんから教わった心理学の手法によって紐解いていったところも、海の成長という点があってよかった。
ただここだと、海と尋の話より、海がまこちゃんの行方を追う話の方が次の最終章の根幹に関わるので、その印象が強い。まこちゃんが亡くなっていたことを知り、困惑している海にまこちゃんからのスカイプが飛んできたときは本当にわくわくした。
- 橘真琴
これまでの話もよかったんだけど、やっぱりまこちゃんの話が一番。まこちゃんがどうして海たちと会うことを拒んできたのか、どうして舞台が2020年代という近未来なのかという伏線をうまく回収していた。
まこちゃんが自殺に至るまでの話はえげつなかった。学校にも家にも居場所がないまこちゃんを思うと本当に辛い。友達を作ろうとしてもうまくいかずに諦め、学校にも行けなくなり、唯一の頼りだったお兄ちゃんからも冷たくされ……。まこちゃんがだんだん弱っていく姿を見ているのはただ辛かった。
そういった辛い描写も相まって、まこちゃんとお兄さんが電話するシーンからはずっと泣いてた。お兄ちゃんと三日間という限られた時間を過ごし、最後はこれまで救ってきた200名以上の人たちが集まって感謝の言葉を述べる。泣く要素しかない。
まこちゃんの生前は辛く苦しいことばかりだったが、だからこそこういった幸せを得ることができた。そこに「親愛なる孤独と苦悩へ」という言葉の意味を見出すことができると思う。これまでの3人も、苦悩があったからこそいまの自分になっているのであって、「孤独と苦悩はいけないことだ」という観念も変わりうるということに気づいたときは、すごいゲームだと思った。
とにかくまこちゃんが最後は幸せになってくれて本当によかった。
- 総評
心理学だけじゃなく、物語の面白さもしっかりあった素晴らしいゲームだった。今悩みを抱えている人にはぜひおすすめしたい。そして葛藤や悩み、人生について一度考えてみてほしいと思います。